グラフィックツール仕様書

 ゲームを作るためには、まずツールから作らねばなりませんでした。
 私の入社当時はX68000というPCを使っていて、メダロット1までは別支社のプログラマーさんがX68000で作成された超優秀なグラフィックツールでドット絵を作成することができたのです。
 それはアニメ機能までついていたという優れモノで、メダロット1のドット絵から戦闘アニメまですべてこのツール一つで作成できました。

 X68000と言えば、記憶媒体がフロッピーディスクだった時代の中でも、5.25インチという大きなサイズ感が素敵なフロッピーディスクを使用するPCでした。
 その存在すら、ご存じない方のほうが多いのではないでしょうか。3.5インチフロッピーも見かけなくなりましたしね。

 ところがX68000がオフィスから消えて、専用のグラフィックツールがなくなってしまったのです。
 私はメダロット2でグラフィックから退いたのですが、後任のグラフィッカーさん用に、私がドット絵専用グラフィックツール仕様書を作るよう指示されました。
 やることを他に山ほど抱えていた私は正直、「エッ? 私が!?」と思いました。
 私自身はもうグラフィッカーの仕事をすることは基本的にありませんし、今後グラフィックツールを多用するグラフィッカーさんご自身が、仕様書を書かれた方がいいと思ったのです。
 それでも私だったのは、私がそれまでグラフィッカーとしてやってきており、かつ超優れものだったグラフィックツールの使用経験があったからだったのかもしれません。
 さらにグラフィッカーさんたちが別会社となったため、 (別料金が発生しない )社内の人間でかつグラフィッカーで、さらに最も絵を多く発注するであろうメダロットチームのメンバーで……と条件を絞っていくと、グラフィックツール仕様書作成者が私になったのも合点がいくような……。

 グラフィックツール仕様書作成も、困難を極めました。
 テトリスプラスGBの時もでしたが、仕様書を作っては担当のプログラマーさんに持っていく度、「ここが足りない!」「ここはどうなってるの!?」と仕様書を突き返される日々。
「書かなくても分かるだろう」は通じません。
「こんなことまで書かなければならないのか!」というレベルで、微に入り細に入り、あらゆる仕様を書き記さねば、 プログラマーさんに仕様書を受け取ってもらえませんでした。
 この辺りは、プログラマーさんにもよるでしょうけれども。
 ちなみにその時担当のプログラマーさんは、社内随一クラスの方でした。少しの仕様の抜けも許されなかったのは、有能な方だったからこそ、なのかもしれませんね。

 こうして何とか私は仕様書を書き上げ、超有能プログラマーさんの手によって無事にグラフィックツールが完成したのでした。
 そのグラフィックツールを私自身が使った記憶が無いので、使用感は不明だったりしますが、不満は特に耳に入ってこなかったので恐らく実用レベルではあったのでしょう。
……私が実情を知らなかっただけ、という可能性もありますが。

3+

ディレクター業について

 私はメダ3の前に、テトリスプラスGB移植の時にディレクターを一度経験していました。
 開発規模も小さく、また移植だったこともあり、ディレクター業の修行には最適でした。
 同じチームとなった上司のプログラマーさんから叱責を受ける日々でしたが、私はこの叱責を心からありがたいと思いました。
 企画書・仕様書の書き方、予算・スケジュール管理等々といったディレクター業というものを、私はテトリスプラスGB移植で学ぶことができたのです。
 そしてこのディレクター経験があったからこそ、メダ3で私に白羽の矢が立ってしまったとは言えます。

 ディレクター業を経験した上で、私がディレクター業に必要だと身に染みて思ったスキルは、

・リーダーシップ
・コミュニケーション能力
・プレゼン能力
・管理能力(スケジュール・予算・容量等々)
・仕事の采配力

……というものです。
 私には、どれも圧倒的に足りておりませんでした(今もですが)。
 私がどれくらい苦手だったかと申しますと、

・リーダーシップ
      →人に使われる方が気が楽
・ コミュニケーション能力
      →コミュ障気味
・プレゼン能力
      →人前で話すのは苦手
・管理能力(スケジュール・予算・容量等々)
      →いい加減適当大雑把人間
・仕事の采配力
      →マルチタスクは苦手

……という体たらくです。スキルをデータ化してお見せすることはできませんが、少なくとも私がディレクター業に向いていないことは火を見るより明らかです。
 さらにツリー構造の下から一段階アップしたことにより(偉くなったのではなく、あくまで役割的なモノです)、上の方と下の方のサンドイッチ状態になったことが地獄でした。

 しかし私がやらなければ、ゲームが完成しないのです。
 引継ぎの時間や余裕はありませんでした。何より、シナリオは私の脳内にしか無かったのです。
 基本的に人との争いを好まない私ですが、凄まじいデスマーチの連続で追い詰められ心身共に極限状態に陥り、また若さもあって上の方々に噛みついたこともありました(物理的にではありません)。
 悪くても首、死ぬわけじゃない。私が抜ければ、この子はどうなるんだ……と、まるで子を守る手負いの獣状態でした。
 私にとって最悪なことは首になることではなく、ゲームが完成せず日の目を見ない、またはゲームが未熟児の状態で世に出てしまうことでした。

 リーダー気質の持ち合わせなどなくコミュ障気味なのもあって、仕事を人に任せたり指示を出すことが苦痛で、常に抱える仕事は山のようでした。
 ですがゲーム開発はチームで行うので、最低限のコミュ力は必須です。会話による意思疎通や口頭での指示はどうしても必要で、「人見知り」などとは言っていられません。
 また、修羅場で追い詰められていたのは私だけではありません。心身ともに疲弊し気が立っている方々に指示を出し、時に感情をぶつけられるというのは、私にとってはかなり辛く厳しい体験ではありました。
 苦手なことだらけでしたが、苦手だからといってやらなければゲームが完成しませんでした。
 執念でやり遂げました。

 そんな訳でメダ3の時はディレクター業とシナリオ業その他色々という、二足の草鞋どころか何足草鞋を履いているのか分からないムカデの草鞋状態という狂気の沙汰でした。
 ですが「スタッフロールは一人一項目」というルールがあったので、メダ3のでの私の肩書はディレクターのみとなっております。
 私の肩書がシナリオになってしまうと、「一人一項目」のルールからディレクター不在となるため、メダ3ではディレクター表記なのでした。
 シナリオをやるためにディレクターを兼任していた私は、メダ3のスタッフロールの「ディレクター」という肩書に、少々複雑な感情もあります。
 その一方でディレクターの肩書は、「ディレクター業をもやり遂げた」という何よりの記念とも言えるのです。

4+

巨大な看板と城壁とバグとの死闘

 今はアップデートでバグの修正ができますが、昔はできませんでした。
 納品したロムに致命的なバグが見つかれば、回収騒ぎとなりヘタすれば会社が傾く大問題です。

 メダロットの時ではないですが、納品後に重大なバグが発見され、京都の任天堂様の工場に一人向かったことがありました。
 最寄り駅からすぐに任天堂様の看板は見えるのに、行けども行けども辿り着けません。
 駅から看板が見えていたのは工場が近かったからではなく、私が思っていたよりずっと看板が巨大だったからなのです。
 それでもやっとたどり着いたと思ったら、今度は長大な難攻不落の城壁に阻まれ、やはり行けども行けども入り口が見つかりません。

 徹夜明けの体力ゲージは残り少なく、疲弊しつつも何とか入り口までたどり着き、ロムを手渡し踵を返した時、工場の方に呼び止められました。
「帰り道は分かりますか?」
 極度の方向音痴の私は、その方のお言葉であることに気づきました。
 行きは巨大看板を目印に迷うことはありませんでしたが、帰りは目印の看板が無いのです。
 当然その時代、グーグルマップなんて便利なものは存在していませんでした。
「……分かりません」
 あの時親切な工場の方に手描きの地図をいただかなかったら、私は駅まで帰り着けなかったでしょう。

……こうして無事手渡した最終ロムであったはずのものは、更にバグが見つかり違う方の手で再び工場へと届けられたとか何とか。

 デバッグは背水の陣。
 致命的バグは死活問題。
 死力を尽くした作品が致命的バグ一つで死亡なんて、あってはならないことです。
 決死の覚悟でデバッグしていたものです。

 任天堂様の京都の宇治工場。温かな日差しに照らされ輝く水面の宇治川沿いを歩いた思い出。
 修羅場の徹夜明けという状況と、そののどかな光景が対照的で、深く印象に残っております。
……ちなみに会社の上司な方に言われていた、お土産の宇治抹茶は買っておりません。

3+

敵メダロット構成悲喜交々

 シナリオ屋がゲーム開発スタッフであることのメリットでお話ししたように、イベントのシステム関連では私の要望が叶えられた一方で、敵メダロッターのメダロットたちの構成は、私のシナリオに合わせてもらえませんでした。
 私の希望でデザインしていただいたさくらちゃんの後継機、ネオさくらちゃん(攻撃パーツを持たない、応援メダロット)がコウジのリーダー機にされたときは愕然としました。

コウジ「おれは いつだって 本気だぜ!」

 コウジの本気とは一体……。
 私の脳裏には、がむしゃら特攻で真っ先に散ったエクサイズ(こちらが本来のライバル機)と、残されたネオさくらちゃんが両腕のポンポンを振り回し超高速で応援を繰り返すシュールな図が焼きついております。
 ロボトルの戦略としてはアリだと思うだけに、何とも言えない気持ちになるのです。
 何より、ネオさくらちゃんの間の抜けたゆる~いデザインは、 カッコいいライバル機のイメージからかけ離れておりました。
……ちなみにネオさくらちゃんの元となったさくらちゃんを発案したのは私で、さくらちゃんシリーズ自体は今でも大好きです。
 ですが私は、さくらちゃんをライバル機のイメージで発案したわけではなかったのです。

 ライバルのコウジだけではなく、ヒロインのアリカのメダロット構成も、私の想定外のものでした。
 アリカに関して私は、ゲームの初期段階で対戦する練習相手と考えていました。ところがアリカは私の想定を遥かに超えて、強すぎたのでした。
 そのため私が用意したアリカのセリフと、アリカ自身の強さが噛み合っていないという現象が起こりました。

 アリカ「かよわい女の子だからって 手をぬかないでよ!」

 かよわさとは、一体……。
 元々女型しか使わないアリカ相手に、初期段階で女型限定ロボトルのイベントを入れてしまった私は焦りました。
 ヘタすれば詰みかねないと思ったからです。

 アリカ「もーちょっと 手かげんしてくれたって いーじゃない!」

 手加減して勝てる相手ではなかったと思われます。
 私が「なんでコウジにネオさくらちゃん!?」「ライバルのコウジよりアリカの方が強いんじゃ?」と指摘しても、「面白いじゃないですか」と返されてそのままでした。

 ならばと私は、アリカが単身でロボロボアジトを壊滅させるイベントを作りました(メダロックCDの「愛しきロボロボ団」の歌詞にも、そのエピソードは入れました)。
 アリカならロボロボ団員が何匹出ようとも、一人で余裕だと思ったのです。
 アリカのメダロット構成を私のシナリオに合わせてもらえなかったので、私の方がアリカの強さにシナリオを合わせました。
 このヒロインによる敵アジト殲滅イベントは、イッキだけでなくプレイヤーの皆様も「アリカなら……」とご納得いただけたのではないでしょうか。

 さらに私の想定外のメダロット構成は、コウジとアリカだけではありませんでした。
 メダロット4で登場させた四天王(中ボス)の一人、コクエンの メダロット構成に、私は衝撃を受けました。

コクエン「なんで 勝てねぇんだよッ!!
 こいつは だれにも まけない
 どんな ヤツでも ぶっこわせる
 さいきょうの メダロットじゃ
 なかったのかよ!?」

 私がそんなセリフを用意したコクエンのメダロットたちの能力は、「地形効果」でした。
 地形効果はその名の通り、バトルフィールドを変更するという効果です。
 よって地形効果だけでは、何一つぶっ壊せません(もちろん、他のメダロットやパーツとの組み合わせ次第ではありますが)。
 私が想定していたコクエンのメダロットは、 攻撃力の高いパーツを持つメダロットでした。
 台詞とメダロット構成のちぐはぐな組み合わせにより、比較的シリアスなシーンのセリフのはずが、ギャグパートのようになってしまいました……。
 ちなみに他の三天王のメダロット構成に関しましては、コクエンのインパクトが強すぎてあまり気になりませんでした。

メダロットでは毎度おなじみとなってしまった「敵構成がシナリオを書いた人間の想定外」というこの現象は通常、小説や漫画等ではなかなか起こらないのではないかと思うのです。
 そんな開けてビックリなメダロット構成でしたが、結局は餅は餅屋、ロボトルはロボトル屋にお任せが一番だと思いました。
……メダロットのバトル、ロボトルは、私というシナリオ屋の想定外なところが面白かったのかもしれません。

3+

シナリオ屋がゲーム開発スタッフであることのメリット

シナリオ屋がゲーム開発スタッフであることのメリットは大きいです
シナリオに合わせて、ゲームに新しいシステムを導入してもらえるんですよ!
パートナー会話システムとかっ!!
……逆に「ミニゲームをシナリオに入れて」「パスワードを〇個イベントに入れて」といったご注文も承りました

パートナーとの会話イベントをもっとたくさん作りたかったのですが、余裕がありませんでした
余裕があれば、メダロッチでの会話のバリエーションももっと増やしていたと思います
パートナーによるシナリオの分岐等々、色々作りたかったです

メダ3では、主人公チェンジシステムを導入してもらいました
いや~何でも言ってみるもんですね~

メダロットに新しい要素追加を求められて生まれたのが、メダチェンジでした
クラフトティモードは実装されずイベントのみでしたが、その後も二段階メダチェンジは一度も実装されていないようですね
メダチェンジ自体、賛否両論ございますけれども

変形はロボット物のロマンですし、でもシステムにはそぐわないかもということで、ジレンマはありました
ですが、デザインの幅は広がりましたよね!

その後、トランスパーツシステムというものも実装されたのですね
メダチェンジ機体もパーツ組み替えができるなんて、驚きです
戦闘システムも、色々と進化してるんですね

メダ4のキューちゃんイベントでも、「パートナー強制変更」というコマンドを作ってもらいました
キューちゃんがリーダーかつメンバーから外せないようにしてもらったのです
これが無理なら、展開を変えなければいけませんでした
いつもダメ元で言っていましたが、大体希望が通っていました

「パートナー強制変更」コマンドを作ってくれたのは、プログラマーさんです
容量追加やコマンド追加といった私の無理を聞いてくださったのはプログラマーさんで、「できないんですか?」という言葉で白玉くんの無理を聞いてくださったのもまた、北玉さんを始めとしたプログラマーさんなのです

4+

本業は……

糸賀様より初めてお電話をいただいた時の会話です
糸「ちなみに平野さんは、メダロットとはどのような関わりを……」
平「メダロット1の時はグラフィックとシナリオ監修とマップレイアウト、イベントスクリプト、2の時はシナリオとマップレイアウトと、イベントスクリプトで3はそれに加えてディレクター、そして4ではシナリオと……」
糸「わ、分かりました! 分かりました!」
……こんな感じでした
細かく言えばゲーム開発全般に関わる業務を他にも色々やっておりましたが、本業はシナリオ屋……です

5+

イッキのその後

私はメダ4で「イッキ編は終わり」と言って出てきたのですが、イッキはメダ4当時小5だったんですよね
むしろ人生これからって年齢です
小学生にして世界大会のチャンピオンになり、月で未知との遭遇をし、メダマスターの称号を得た後、彼は何を思いコンビニ店員となったのでしょうか

ふと、イッキはある日ヒカルから「あとよろしく」と言われて衣装一式ホイッと渡されて……という可能性が思い浮かびました
私が知らない間にイッキに何があったのだろう、と色々想像するのも面白いですね

5+

メダリンピック

メダロットSは、メダリンピックやるんですね
メダリンピックという響き、なんだか懐かしいです
メダリンピックということは、メダロットSでも宇宙へ行くのでしょうか(謎)
メダ3でイッキたちを宇宙に連れて行ったら、大変な目に遭ったことを思い出します

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宇宙メダロッターXのセル画

宇宙メダロッターXのセル画です

たこ焼き食べてたのかと思いましたが、プリンだったようです
記憶が曖昧になっております
仮面を二重重ねしていた気がするんですが、どうやって食べたんでしょうね?

メダロット開発中に、いただきました
私がランダムにいただいたセル画がコチラでした
今となっては貴重な一枚かもしれませんね

宇宙メダロッターX
1+

メダロック 愛しきロボロボ団

ロボロボ団の歌詞に関しましては、メダロット開発当時、音屋の上司さんが「ロボ~ロ~ボだ~ん♪……ええやろ?」と歌ってらっしゃったので、「ロボロボ団」の部分はそのまま歌詞にしました
音屋さんが歌ってらっしゃったのですから、きっとこれで正解なのだと思います

3+