ゲーム業界に至るまでとメダロットシナリオのベース

 私が昔から一番好きだったことはシナリオを書くことだったのですが、シナリオ系学校は見つかりませんでした。
 なので次に好きだった絵を描く道を選び、美大進学に必要なデッサンを学ぶことにしました。
 絵を描くことは好きだった私ですが、デッサンは苦痛で仕方がありませんでした。
 デッサンを学び始める前の私は「好きな絵を描いて美大合格♪」などと軽く考えていましたが、やはりデッサンは勉強でした……。
 デッサン教室では数時間かけて、ひたすら与えられたモチーフを描いて描いて描き続けるのです。
 楽しんで描く方もいらっしゃるでしょうけども、私にはデッサンはただひたすらに苦行でした。
 それでもやらないことには、目指す美大には入れません。
 私は腰を据えて、高校の間みっちりデッサンを学び美術系短大に入りました。

 ですが美大入学はゴールではありません。問題はその先でした。
 ビジュアルデザイン科だったので当時は広告系がメジャーな就職先だったのですが、美大で私は自分のデザインセンスの無さを痛感していました。
 二年なんて、あっという間です。私は焦りました。
 そんな時、美大の求人掲示板にゲーム会社を見つけたのです。
 昔からずっとゲームが大好きだった私は、即座に「これだ!」と思いました。
 ゲーム会社の募集要項にシナリオライターの正社員募集はなかったので、グラフィッカーで応募しました。
 入社試験は一般試験とデッサン、カラーイラストの提出、そして面接でした。
 元々ゲーム業界を目指していたわけではありませんが(思いつかなかったので)、高校時代にしっかりデッサンを学んでいたことが役立ちました。
 面接の際、「あのデッサンはどこで学びましたか?」と質問されたので、やはりデッサンが大きなポイントになったのだろうと思っています。

 ところが入社後、私がメダロットのシナリオを担当したころに、先輩の事務のお姉様に「(入社試験に合格したのは)シナリオが書けるからだよ」と言われたのです。
 確かに私は履歴書に、「小説を雑誌に応募して二次選考までいった」ということを書いてはいました(お恥ずかしいのでソースはご容赦を。内容はともかく、ペンネームが完全に中二病でした)。
 ジャンルは人が乗り込むタイプの巨大ロボット物のSFでした。
 当時の私はサイバーパンク、ホラー、ファンタジー系が主食で、ロボットは畑違いだったはずなのですが、なぜかある時急にロボット物が書きたくなり、一気に書き上げて応募したのです。
 しかも応募したのは少女小説雑誌でした。それで二次選考までいったのは、なかなかのファンタジーだったかもしれません。
 少女小説雑誌だったことを考慮して、主人公は女の子にしていました。ロボットとかわいい女の子の組み合わせは昔から好きだったので、書いていて楽しかったです。

 そんな私は当時、ロボットアニメの中では「トップをねらえ!」が好きでした。 私は元々「トップをねらえ!」 の原点となったテニスアニメ「エースをねらえ!」が好きで、その影響もあって中学ではテニス部に所属していました。
 ですので、「エースをねらえ!」→「トップをねらえ!」→「ロボット物小説投稿」という流れは、自然な流れだったのかもしれません……?
 ちなみに 「エースをねらえ!」 の原作漫画は、入社後男性の先輩社員さんから愛蔵版をお借りして、読破しました。
 アニメはスポコン色が強かったですが、漫画は先輩が「人生のバイブル」とおっしゃっていただけのことはあって、涙なくしては読めないような深い人間ドラマが描かれておりました。不朽の名作だと思います。
 さらにそのロボット物の投稿小説は、当時読んだSF界の巨匠アーサー・C・クラーク著「銀河帝国の崩壊」という作品にも影響を受けていました。
 こちらはロボット物ではありませんでしたが、世界観に影響を受けております。「自分が知っていたのはごく狭い箱庭の世界で、外には驚くべき広い世界が広がっていた」といったストーリーです。
 他にも当時は、やはりSF界の巨匠アイザック・アシモフ著のロボット工学三原則を軸に描かれた「われはロボット」「ロボットの時代」。
 そして人間の刑事と相棒のロボットが活躍する「鋼鉄都市」シリーズ。
 さらに銀河帝国の興亡を描いた長編シリーズ「ファウンデーション」シリーズ等々を読んでおりました。
 今思えば私は入社前にして、すでにロボット物のメダロットのシナリオのベースはできていたのかもしれません。

 ロボット工学三原則を元にした、メダロット三原則は言わずもがなです。これはシンプルに、ロボット工学三原則の「ロボット」の部分を「メダロット」に変えたものです。
 そして私がアシモフ先生から影響を受けたのは、 ロボット工学三原則だけではありませんでした。
「鋼鉄都市」シリーズで、ロボットを嫌っていた人間の刑事と、まやかしの感情しかないはずのロボットの相棒との心の交流や信頼関係を結んでいく姿。
 それは私が描いたメダロットのシナリオの中で、メダロットとメダロッターの関係にも生かされました。
 ロボット物の投稿小説は短大時代に書いたのですが、当時はロボット物は私からすれば畑違いで、「どうして自分が急にロボット物の小説を書きたくなったのだろう?」と首を傾げていましたが、あながち畑違いではなかったように思えます。

 とはいえ入社試験に当たって提出した履歴書には、 投稿小説二次選考通過のことを自己申告で一文で書いていただけでした。どんな雑誌にどんな小説という詳細は、書いておりませんでした。
 ですので仮にそれが多少加点されていたとしても、入社試験合格の決め手にまではなっていなかったのではないかと思います。今となっては確かめる術もありませんが。

 そして一般試験には国英数があったのですが、数学に父親と三人の息子の年齢を計算で出す問題がありました。
 数字に弱すぎる私が特異な計算式で導き出した答えは、息子が父親の歳を越えてしまうというものだったので、少なくとも数学で入社できたのではないことだけは確かです。

……こうして私は、二十歳からゲーム業界に飛び込んだのです。

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